本記事では戦略人事の導入を検討している企業向けに、戦略人事の概要、失敗の原因、進め方のポイントを解説いたします。戦略人事とは概要戦略人事とは、経営戦略・事業戦略と紐付けた人事のあり方を意味します。元々は1990年代にウルリッチという経営学者が『MBAの人材戦略』で唱えたものです。従来の人事が管理・オペレーション業務などの「守り」中心であったのに対し、人事が経営や事業と連携して価値を創出する「攻め」の要素が強いことが特徴です。戦略人事が注目される背景前述の通り戦略人事自体は昔から存在する概念ですが、昨今の日本で注目されるようになった背景はいくつかあります。VUCA時代に対応できる柔軟な組織作りが必要になっている人的資本経営の浸透により、経営と連携した人事のあり方が求められているHRテックや人事データの浸透により人事施策の効果測定や実行がしやすくなった戦略人事の役割前述のウルリッチ教授は『MBAの人材戦略』で戦略人事の役割を4つに分けています。役割概要ビジネスパートナー経営戦略や事業戦略と連携し、人事施策を通じて組織の目標達成を支援する役割。経営陣と密接に連携し、組織課題の解決に貢献する。変革へのエージェント組織変革を推進し、従業員の意識や行動の変化を促す役割。新しい働き方や文化を根付かせるためのリーダーシップを発揮する。従業員のチャンピオン従業員の声やニーズを理解し、働きやすい環境づくりや福利厚生の充実を図る役割。従業員満足度やエンゲージメント向上に注力する。管理のエキスパート人事業務や制度運用の効率化を図り、法令遵守や人事プロセスの標準化を行う役割。日常の人事管理を安定的に運営することに注力する。また、ウルリッチは戦略人事の役割を以下のようにも説明しています。大意は上の4つと同じです。役割概要HRBP(戦略パートナー)経営・事業戦略を理解し、人事戦略を連動させ、経営層と現場の橋渡しをする。OD&TD(組織開発&人材開発)組織開発と人材育成を推進し、組織能力を高める。CoE(人事プロフェッショナル)専門的知見で人事制度設計や施策開発を行い、質の高いサービスを提供する。OPs(オペレーション)日常の人事業務運営を効率的に行い、制度運用の安定性と正確性を担保する。戦略人事の組織ウルリッチ教授が『MBAの人材戦略』で3ピラーモデルという概念を唱えています。これは、戦略人事を3つの組織で役割分担すべきというものです。組織名概要ビジネスパートナー(HRBP)経営戦略や事業戦略に基づき、現場部門と連携して人事施策を企画・実行し、組織の成果向上を支援する役割。センターオブエクセレンス(CoE)特定の人事領域(採用、育成、報酬など)に専門性を持ち、戦略的な人事施策の設計や高度なサービス提供を行う専門チーム。ヒューマンリソースシェアードサービス(HRSS)人事業務の標準化・効率化を図り、給与計算や勤怠管理などのトランザクション業務を一括して担当する組織。なお、CoEとは企業の研究開発拠点という意味も持つことに注意が必要です。例えば、資生堂やNTTデータが展開しているCoEは、人事組織とは別物です。以下ではCoE=人事組織の1つ という定義で説明を続けます。この3者の関わり方は以下の図の通りです。出典: グロービスHRBPが人事組織のフロントに立ち、事業部とのコミュニケーションを担います。多くの企業ではHRBPは1人ですが、事業部が多い大企業ではHRBPを複数名置いてコミュニケーションを分担することもあります。CoEは人事組織の参謀のような役割であり、HRBPに対して人事領域のアドバイスを行ったり、事業部への提案のサポートを行います。また、事業部を横断して全社の人事戦略を統一するのもCoEの役割です。HRBPを複数置いたり事業部が数多く存在すると、事業部ごとに独自の人事制度やデータを構築して横の連携がとりづらくなることがあるため(組織のサイロ化)、CoEが全社視点を持って人事制度を設計します。HRSSはHRBPやCoEが設計した制度がスムーズに実行されるように、オペレーションを運用します。戦略人事の進め方戦略人事が失敗する原因人事白書によると、戦略人事を導入していても機能している企業はわずか5.1%とのことです。その原因は「人事部門のリソースの問題」が最も多く、次に「経営陣の問題」「人事部門の位置づけの問題」「人事部門のメンバーの能力の問題」など多岐に渡ります。それぞれの理由を掘り下げると、戦略人事が機能しない根本原因は以下のようなものと考えられます。問題の種類起きている背景・理由人事部門のリソース不足従来の人事労務でも業務量が多く人員・時間が不足しているため、戦略人事まで手が回らない。経営陣の理解・関与不足戦略人事の価値や必要性を経営陣が理解していないと、意思決定や予算承認が遅れ、優先度が低くなる。人事施策と経営戦略が乖離しやすい。人事部門の組織上の位置づけ人事が経営会議や意思決定の場に参加できず、戦略提案の権限・影響力が限定される。「総務的役割」に留まると戦略的施策が形骸化する。人事部門メンバーの能力不足戦略人事にはデータ分析、事業理解、経営視点、変革推進力など高度なスキルが必要。従来型の人事経験者は労務や制度運用には長けているが、戦略的スキルが不足しがち。組織文化・構造の問題経営層・人事部門・現場のコミュニケーション不足により、戦略人事施策が現場に浸透せず、形骸化する。経営戦略と現場の実行が連動しにくい。戦略人事の進め方これらを踏まえて、戦略人事を進めるときのポイントは以下の通りです。人事組織を整理する前述の通り、戦略人事が機能しない最大の理由はリソース不足です。人事は従来の人事労務・オペレーション業務だけでも忙しく時間や人員が不足しているため、戦略人事のミッションを与えられてもそこに割けるリソースが無いからです。よって、戦略人事を実践するときは人事組織や人員を整理しましょう。3ピラーモデルを参考に、「事業部とのコミュニケーション担当」「企画・施策の設計担当」「オペレーション担当」などと役割を分担します。経営陣や事業部との連携を整理する戦略人事は経営戦略・事業戦略を達成するための人事なので、経営陣や事業部との連携が必須です。ところが、HRBP・CoEなどの役職・組織を設置しただけでは「経営情報が戦略人事まで降りてこない」「事業部が戦略人事に情報を提供してくれない」などの問題が発生します。よって、経営陣や事業部と連携するための仕組みを整理しましょう。「HRBPが経営会議に出席する」「HRBPと事業部の定例会議を設ける」などの会議体を設ける他、「経営陣から事業部に戦略人事の意義を説明する」なども重要です。HRBPを任せられる人材を用意する戦略人事を進めるときの大きな課題となるのがHRBPの不在です。従来の人事はバックオフィスやオペレーションを担当していた人が多く、経営戦略・事業戦略の理解や組織設計といったビジネスサイドに長けた人が少ないからです。オペレーションが得意な人をHRBPにアサインしても育つのに時間がかかりますし、そもそもHRBPに向いておらず十分に機能しないこともあります。こういうときはHRBPを任せられる人材を新規採用するか、事業部からHRBPを抜擢すると良いでしょう。両者メリット、デメリットがあるので、自社の採用や組織の状況を踏まえて判断しましょう。区分メリットデメリット新規採用・即戦力となるHRBP経験者を採用できる・外部の知見やベストプラクティスを社内に持ち込める・人事機能の高度化・変革をリードできる人材を確保できる・社内のしがらみにとらわれず中立的な立場で判断できる・採用コストが高い(年収水準も高め)・自社の事業や文化の理解に時間がかかる・経営・事業部との信頼関係を一から構築する必要がある・カルチャーフィットしないリスクがある事業部から異動・事業内容や現場の実情を深く理解している・既に事業部や経営との人間関係・信頼関係がある・カルチャーフィットのリスクが低い・異動コストは採用より低い・人事専門知識やHRBPスキルが不足している可能性がある・異動元の事業部にとって損失になる場合がある・外部知見が入りづらく、既存のやり方を踏襲しがち新規採用するときは正社員採用が多いですが、難しいなら業務委託やアウトソーシングサービスを使っても良いでしょう。事業部から異動させるときは経営・事業に対する理解度が深い人間(マネージャーやベテランなど)を抜擢しましょう。戦略人事実践チェックシート戦略人事と一口に言ってもその領域が多岐に渡るため、「戦略人事とは何をすれば良いか分からない」という企業が増えています。また、「戦略人事」を客観的に測る尺度が存在しないため、「自社の戦略人事がどれぐらいのレベルか分からない」ということもあります。このチェックシートは、弊社で定義した「戦略人事の理想像」に沿って、企業が戦略人事をどれぐらい実践できているかを診断できます。チェックシートをダウンロードするHuman & Human前述の通り、戦略人事が機能しない大きな原因は人事のリソース不足です。元々存在していたオペレーション業務でも人手や時間が不足しているため、戦略人事などの新しい業務に手が回らないためです。人事のオペレーション業務の中でも大きな時間を割くのが人事データの集計・管理(Excelの整形など)ですが、そういった課題を解決するのが、Human & Humanというクラウドワークスで開発している人事特化型BIツールです。Human & Humanの特徴は以下の通りです。設計コスト人事でよく使う色々なデータベースや計算式がデフォルトで用意されている。データの前処理コスト他の多くの人事システムとAPI連携している他、データクレンジングのサポートも用意。権限管理部署・職種・役職に合わせて各データの閲覧・編集権限を管理できる。学習コスト1クリックでデータのかけあわせができるので、データ分析に詳しくない人事でも簡単に操作可能相関分析散布図やヒートマップを使って簡単に分析できる。多くの企業・人事で時間をかけている人事データの整形・集計などの業務を大幅に削減し、余ったリソースを戦略人事などに振り分けることができます。Human & Humanについて詳しく知りたい方は、機能や導入事例をご覧いただくか、以下よりお問い合わせお願いいたします。