社員の労働生産性を高めたいというのは多くの企業に共通する悩みかと思います。本記事では労働生産性を向上させるための分析ポイントや分析ツール比較について解説します。※人事データ活用の基本を知りたい方は人事データ活用にありがちな悩みを解決! 人事データの種類や分析のポイントも合わせてご覧ください。また、記事の最後では人事データ分析ツールHuman & Humanについてもご紹介しています。詳しく知りたい方は以下をご覧ください。機能導入事例資料請求サービス説明・デモ依頼労働生産性とは労働生産性とは一言で言えば社員や部署の生産性を表すものです。実は労働生産性には色々な指標が存在していること、似た概念が存在することから、混乱を引き起こしやすい概念でもあります(後述)。労働生産性が注目される背景労働生産性自体は古くから存在する概念ですが、昨今の日本で注目されるようになった背景はいくつかあります。少子高齢化や労働人口不足、働き方改革により、効率的な働き方で高い成果を出すことが求められるようになった人的資本経営の浸透により、人事データを活用した人材価値や企業価値の向上が加速しているテレワークの浸透によりデータで人事や組織を把握する必要性が生じた人事データを活用できる様々なツールが登場した労働生産性と人時生産性の違い労働生産性に似た概念として「人時生産性」があります。まずは両者の違いを説明いたします。労働生産性人時生産性定義労働者1人あたりの生産量労働1時間あたりの生産量計算方法生産物の物量÷労働量生産物の物量÷労働時間活用シーンフルタイム勤務の社員が多い場合時短勤務の社員が多い場合一般的に、時短勤務の社員(パートタイムやアルバイトなど)よりもフルタイム社員のほうが労働時間が長いため、フルタイム社員のほうが1人あたりの生産量が高くなります。両者を労働生産性で比較するのはフェアではないため、時短勤務社員の多い会社では人時生産性を用いて分析するのがおすすめです。逆に、フルタイム社員の多い会社では労働生産性で構いません。以下、本記事では労働生産性について説明いたします。物的労働生産性と付加価値労働生産性の違い労働生産性の有名なものとして「物的労働生産性」「付加価値労働生産性」の2種類があります。物的労働生産性付加価値労働生産性計算方法生産物の物量÷労働量付加価値額÷労働量※「付加価値額」は売上・利益・営業利益などの財務指標※「労働量」は従業員数、または労働時間活用シーン製造業の生産部門の労働生産性を調べたい場合・製造業以外の業界で労働生産性を調べたい場合・ 製造業の生産部門以外の労働生産性を調べたい場合物的労働生産性は文字通り物理的な生産量を表すものなので、製造業の生産部門や工場などの生産性を調べるのには有効です。逆に、無形商材(ITや人材など)や、製造業の生産部門以外(営業やマーケティングなど)の生産性を調べるには付加価値労働生産性を用いるほうが良いでしょう。労働生産性分析の概要労働生産性分析を行う目的労働生産性分析を行う第一の目的は、労働生産性の低下の原因や影響を把握することです。例えば長期残業が労働生産性の低下に繋がっていることが分かれば、残業削減の施策を打つことができます。第二の目的は労働生産性の低い個人や組織をフォローすることです。残業時間と離職率の相関が強いなら、残業時間の多い社員や部署をフォローすることで労働生産性が向上すると考えられます。労働生産性分析の手法労働生産性に限らず、人事指標は色々な要素が重なって変化するものなので、「労働生産性低下の原因」「労働生産性低下による影響」といった明確な因果関係を調べるのは困難です。そこで、労働生産性と他の人事指標の相関関係を調べる相関を元に、労働生産性低下の原因や影響の仮説を立てることが重要です。(例)労働生産性と人事データとの相関仮説残業時間が長い社員ほど労働生産性が低い長時間労働で社員が疲弊しているエンゲージメントスコアが低い社員ほど労働生産性が低い社員が業務のやりがいや会社のミッションへの共感を感じていない等級が低い社員ほど労働生産性が低い等級が低い社員のマネジメントが上手く機能していない労働生産性分析の対象労働生産性分析では「個人に対する分析」「組織に対する分析」の2種類があります。前者は労働生産性が低い社員を把握する方法であり、後者はそれが低いセグメント(部門・役職・職種など)を把握する方法です。どちらも労働生産性が低いものを特定してフォローや人事施策を行うのは同じですが、それぞれにメリット・デメリットがあるため、上手く使い分けましょう。個人に対する分析組織に対する分析分析対象特定の社員特定のセグメント(部門・役職・職種など)フォロー例社員への個別対応(社員との面談、メンタルケア、人事異動など)・管理職や事業責任者への個別対応(研修、面談など)・セグメント全体に対する対応(研修、チームビルディングなど)メリット・社員にパーソナライズした対応ができる・効果が出るのが早い・個別対応よりも工数が少ない・会社や組織全体へのインパクトは大きいデメリット・社員数が増えるほど工数が増える・会社や組織全体へのインパクトは小さい・社員一人ひとりにパーソナライズした対応は難しい・効果が出るのに時間がかかる労働生産性の判断基準労働生産性が高いか低いかの判断基準には、いくつかの考え方があります。絶対評価(例)事業部Aは1人あたり100万円であり、閾値の150万円より低い相対評価(例)事業部Aは1人あたり100万円であり、社内の平均値(または中央値)150万円より低い時系列での変化(例)事業部Aは6ヶ月前は200万円だったが、今月は100万円労働生産性分析を何度も実施し閾値を発見できている場合は絶対評価も有効ですが、そうでなければ相対評価や時系列での変化を中心に判断すると良いでしょう。労働生産性の分析ポイントここからは以下の定義を元に説明いたします。労働生産性=粗利(売上-原価)/従業員数※人件費は含まない。セグメントごとの労働生産性を調べるまずは労働生産性の低いセグメントはどこかを分析します。労働生産性が他に比べて低いセグメントのほうが改善インパクトが大きいため、優先的に対策する必要があります。セグメントとしては社員の基本情報(性別、部署、役職、等級、職種、入社年度など)が有効です。↑事業部ごとの労働生産性。D事業部の労働生産性が低いことが分かる。労働生産性と人事データの相関を調べる労働生産性の低いセグメントを発見したら、労働生産性と人事データ(離職率、残業時間、売上など)を紐付けて分析します。これにより、労働生産性の低下がどの指標に影響しているのか把握し、仮説を立てることができます。残業時間の分析については人事データを活用した残業時間の削減もご覧ください。↑労働生産性と離職率の相関が強いことが分かる。※相関分析では指標同士の相関係数を調べます。詳しくは人事データ活用でよく使われる分析手法をご覧ください。労働生産性の推移を調べる労働生産性の低下がいつから発生しているのか把握できます。ある時期から労働生産性が低下した→その時期に原因が発生した(組織や人事制度の変更など)低い労働生産性が長期間続いている→慢性的に原因が存在している(昔からの残業体質など)↑D事業部の労働生産性の推移。2024年8月から低下し、2024年10月から上昇している。分析後のアクション原因に対する仮説を立てる上の分析プロセスを元に、労働生産性がなぜ低いかの仮説を立てます。データだけを見ても仮説が立てづらい場合、360度評価・サーベイの回答内容などの定性情報を調べたり社員にヒアリングするのも有効です。アクションプランを考える仮説を踏まえて、それを解決するためのアクションを考えます。例えば、以下のようなアクションが考えられます。労働生産性が低い原因の仮説アクション非効率的な業務環境・業務効率化のツール導入・業務フローや業務内容の見直し職場の人間関係の不仲・チームビルディング研修・1on1の導入・人員配置の変更社員のメンタルヘルス不調・産業医との面談・1on1の導入人員の不足・人員の異動・人員の新規採用ただし、人事制度や組織の変更などを伴う大規模なアクションになるほど効果が出るまでに時間がかかります。アクションが現実的に実行可能か、解決までのスピードが見合っているかなども踏まえて検討しましょう。労働生産性と人事データの変化を時系列で見るアクションを実施した後、労働生産性や相関の強いデータの変化を定点観測します。アクションから数値に反映されるまでタイムラグがあることが多いので、しばらく様子見が必要です。もし時間が経過しても数値が変化しない、またはわずかな変化しか見られない場合、原因の仮説やアクションを見直しましょう。分析例労働生産性を事業部ごとに調べた結果、以下の結果を確認できた・事業部Aの入社1年目以内の社員が労働生産性が低い上のセグメントについて人事データとの相関分析を行った結果、以下の結果を確認できた・事業部Aは他の事業部に比べて入社1年目の社員が多い・労働生産性とスキル、残業時間の相関が強い・労働生産性の低さは事業部Aが新規採用を増やした時期から続いている上記の結果から、以下の仮説を立てた新入社員のスキルが低いために残業時間が長引き、労働生産性が下がっている以下のアクションプランを立てて実行した・事業部Aから他事業部への異動を検討する・スキルアップのための研修・入社後のオンボーディングの見直し・入社後のフォロー面談の導入労働生産性の変化を定期的(3ヶ月後、6ヶ月後など)に調べる労働生産性の分析の課題データの前処理が大変労働生産性と人事データの相関を調べるためには様々なデータが必要ですが、これらは複数のシステムに分散していることがほとんどです(社員情報はタレントマネジメントシステム、残業時間は勤怠管理システム、有給取得率はワークフローシステムなど)。そのため、各人事システムからデータをダウンロードするExcelで各データを突合するExcel上で集計やグラフ化を行うという工程を踏むことが多くなります。この1・2の作業を「前処理」などと呼びますが、データの種類や件数が増えるほど前処理の手間も大きくなります(一般的に、データ分析では8割の時間が前処理に費やされるとも言われています)。Excelでの集計が大変3の集計・グラフ化についても、色々と切り口を変えてデータを見る度に作業をやり直す必要があります。例えば、全社の残業時間データを見たい→次に部署別のデータを見たい→次に年代別のデータを見たい離職率と勤続年数の相関を見たい→次に残業時間とエンゲージメントスコアの相関を見たいのように色々な分析を行うと、集計やグラフ化だけでも大きな時間がかかります。多くの指標の相関分析が大変相関分析を行う流れは以下の通りです。「ある指標と労働生産性の相関が強い」と仮説を立てるその指標と労働生産性の相関係数を調べる相関が強い指標が見つかるまで1〜2を繰り返す労働生産性と相関の強い指標がなかなか見つからない場合、相関分析を何度も行う必要があり大変です。上記を踏まえて、労働生産性の分析ではExcelを脱却し、分析ツールを導入することをおすすめします。ツールを早めに導入すべき理由労働生産性の分析に限らず、人事や組織開発の業務は「重要度は高いが緊急度が低い」ものが多いため、課題を感じながらもExcel運用を続けている企業が多いのですが、なるべく早めの導入をおすすめします。その理由は以下の通りです。組織の機会損失の防止Excelでの人事マスタ運用を長く続けるとExcelが複雑化し(膨大な関数やタブ・データの繋ぎこみなど)、「Excelを扱える人事が少ない」「Excelでの集計に時間がかかる」などの課題が発生します。人事の多くの時間がExcelに割かれてしまい、組織の活性化やパフォーマンス向上などに時間を割けなくなってしまいます。組織の機会損失を防ぐためには、今問題になっていないとしても、早めにExcelを脱却してツールを導入することが重要です。他社に対する競争力拡大以前はLINEヤフーなどのITベンチャー企業を中心に人事データ活用が進んでいましたが、最近では様々な業界の大手企業で活用が進んでいます。例えば、以下のような事例があります。企業名業種人事データの活用例京セラ製造管理職のリーダーシップと従業員のチャレンジ精神に関する研究日立製作所製造新卒採用の人材要件の可視化テンプホールディングス人材社員の異動後の活躍予測リコージャパンIT社員の人材配置の最適化ニトリホールディングス小売社員のスキルの可視化と人材育成住友生命保険金融採用や労務管理業務のデジタル化カルビー食品データドリブンな人財育成※出典記事は企業名のリンク先を参照同業他社が既に人事データに取り組んでいる場合は他社に乗り遅れないように、まだの場合は他社に差をつけるべく、早めに人事データ活用に取り組みましょう。BIツールとタレントマネジメントシステムの違い人事データの分析ツールとして有名なのはBIツールとタレントマネジメントシステムですが、両者には以下のような違いがあります。メリットデメリットBIツール色々な分析に対応できる(例)人事業務を行うことができないタレントマネジメントシステム1つのツール上で分析から人事業務まで完結できる分析機能に制約が多いそれぞれメリット、デメリットがありますが、分析をメインで行いたい場合はBIツールをおすすめします。※BIツール、タレントマネジメントシステムの解説記事もご覧ください。BIツールの比較汎用型と人事特化型上記を踏まえて、労働生産性を分析する際にはBIツールを導入することがおすすめです。BIツールには色々な種類がありますが、人事データを分析する上では「汎用型」「人事特化型」の違いが重要です。汎用型とは人事データ以外(営業、マーケティングなど)の分析用途にも使えるBIツールであり、人事特化型とは人事データの分析に特化したBIツールです。汎用型と人事特化型の違いを以下にまとめました。汎用型人事特化型設計コスト大小データの前処理コスト大小学習コスト大小柔軟な権限管理難易様々なコストが小さく済むことから、労働生産性の分析を行うためには人事特化型のBIツールを使うことをおすすめします。※汎用型・人事特化型について詳しく知りたい方は、人事データ分析におすすめのBIツールをご覧ください。Human & Humanここからはクラウドワークスで開発している人事特化型BIツールのHuman & Humanをご紹介させていただきます。人事でよく使う色々なデータベースや計算式がデフォルトで用意されているため、設計コストやデータのコストを小さく抑えることができます。また、他の多くの人事システムとAPI連携している他、データクレンジングのサポートもしてくれるため、データ分析の8割とも言われる前処理コストを大きく削減できます。1クリックで色々な軸でデータを分析でき、複数軸のかけあわせもできます。(例)部署別×男女別の離職率散布図を使って複数の人事データの相関を調べることもできます。(例)残業時間と離職率の相関また、取り込んだ人事データを元に、人的資本開示の項目を自動集計してくれます。特に労働生産性については労働生産性の時系列での把握様々なセグメント(部署、役職、等級など)での分析他の人事データとの相関分析などのレポート、グラフが標準で用意されており、簡単に分析できます。相関ヒートマップという機能を使えば人事指標の相関係数を一覧で確認できるので、労働生産性と相関の強い指標を簡単に発見できます。Human & Humanについて詳しく知りたい方は、機能や導入事例をご覧いただくか、以下よりお問い合わせお願いいたします。おまけ:労働生産性向上チェックシート弊社で「労働生産性向上の理想像」を5カテゴリに分類しました。シートでは1カテゴリごとに5問、合計25個のチェック項目を用意しています。全項目に回答すると、カテゴリごとに現在の労働生産性向上の課題や改善点をアドバイスしてくれます。チェックシートをダウンロードするおすすめのデータ分析記事労働生産性以外の人事データを分析したい方は、以下の記事もご覧ください。離職率残業時間エンゲージメントスコア社員の健康状態ハイパフォーマー