2023年3月から大手企業4,000社に対して人的資本開示が義務付けられていますが、独自指標の決め方やデータの集計について悩みを抱える企業が多いかと思います。本記事では項目の決め方やデータ集計のポイントについて解説します。人的資本開示によくある悩み開示項目を決められない人的資本開示においては開示推奨項目が多岐に渡る上に、それを定めたガイドラインが複数存在しているため、どれを参考に開示項目を決めれば良いのか分からないという悩みが増えています。例えば、内閣官房が2022年8月に公表した人的資本可視化指針では以下の6分野の開示を推奨しています。人材育成従業員エンゲージメント流動性ダイバーシティ健康・安全コンプライアンス・労働慣行一方、国際標準化機構(ISO)が2018年12月に公表したISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)では、以下の11分野を定めています。コンプライアンスと倫理コストダイバーシティリーダーシップ組織文化健康・安全生産性採用・異動・離職スキルと能力後継者計画労働力また、経済産業省が2022年5月に公表した人材版伊藤レポート2.0では、企業が人的資本経営を実践するための8つのポイントを挙げています。経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み「As is - To be ギャップ」の定量把握のための取り組み企業文化への定着のための取り組み動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取り組みリスキル・学び直しのための取り組み社員エンゲージメントを高めるための取り組み時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取り組み項目や人事データの調査が大変開示項目を決めるにあたって、必要な人事データが社内に存在しなかったり、データの取得や集計に膨大な時間がかかる場合もあり、項目が現実的に開示可能かどうか検討する必要があります。一口に人事データと言っても様々なデータが存在しますが、これらは別々のシステムで管理されていることがほとんどです(社員情報はタレントマネジメントシステム、勤怠情報は勤怠管理システム、申請情報はワークフローシステムなど)。開示項目が複数のデータを組み合わせて集計する場合、複数のシステムからデータを集める必要があるので、どの人事データを使うかそのデータはどのシステムで管理されているかなどを調査する必要があります。項目の継続的な集計が大変人的資本開示は最低でも年に1回(有価証券報告書や統合報告書)、株主総会やIRで報告する場合はさらに開示回数が増えるので、定期的に開示する必要があります。そのためには項目の継続的な集計が必要ですが、この作業をExcelで手動で行うのは大変です。タレントマネジメントシステムやBIツールにはレポート機能が搭載されており、集計作業を自動で行えるものもありますが、開示項目の要件が複雑になるほど標準機能では対応が難しくなります。開示項目を決めるポイント投資家にアピールしたい取り組みを整理する人的資本開示において重要なのは、投資家に企業価値を分かりやすく伝え、投資判断をしてもらうことです。よって、投資家にアピールしたい取り組み(男女格差の是正、若手の育成など)それによって得られるリターン(採用強化、人材輩出など)を整理しましょう。開示項目の優先順位を決める人的資本可視化指針や人材版伊藤レポート2.0の中であくまで自社独自の開示を検討する上での参考としての例示全ての項目にチェックリスト的に取り組むことを求めるものではありません人材戦略の立案やその可視化に完璧性を期すあまり開示が遅れたり、開示事項の充実をためらったりすることがあっては本末転倒となる。という注意書きがされている通り、全ての項目の開示が義務付けられているわけではなく、最初から完璧な開示を行う必要もありません。開示項目の優先順位を決めることが重要です。取り組み別開示方法ここでは企業の取り組みをいくつか例に出し、それを分かりやすく伝える開示項目を説明します。例① 社員の育成に取り組んでいる投資家が知りたがるのは、社員の育成が企業価値の向上にどのように寄与するのかです。例えば、「新卒にビジネスマナー研修を1ヶ月受講させる」「若手社員に資格取得させる」と言われても、それらが企業価値に直接貢献するわけではないので、投資家としては投資判断に困るはずです。よって、まずは以下のような情報を開示すると良いでしょう。社員育成の目的(例)「企業文化醸成のために新卒を育成する」「幹部育成のためにジュニアを育成する」育成スケジュールと定量目標(To Be)(例)2030年後までに新卒8年以内の社員から管理職を50人輩出する育成の現状(As Is)(例)2025年時点では管理職を20名輩出また、上記の実現のために設けている制度、活用率などを開示すると良いでしょう。社員育成の制度・研修・資格取得支援・副業推奨・キャリアコーチ社員の制度活用率・研修の参加率・資格の取得率・副業の実施率社員の成長を確認する制度として、等級滞留年数を設けることも有効です。育成施策が有効に働いて社員が成長できれば、滞留年数は短くなる可能性が高いためです(逆に、同じ等級に長く滞留する社員が多い場合、社員が適切に成長できていない可能性があります)。この場合、以下のような情報を開示すると良いでしょう。対象社員 新卒社員平均滞留年数の目標(To Be) 4年平均滞留年数の現状(As Is) 4.5年例② 離職率の低減に取り組んでいる一般的に離職率の高い会社は良い会社ではありませんが、一方で離職率0%の会社は人材の流動性が低く、組織が老化する恐れがあります。一概に離職率を下げることが投資家へのアピールポイントにはなるとは限らないため、まずは以下のような情報を開示すると良いでしょう。離職率の高騰により社内で起きている問題・社員の残業時間増加、生産性の低下など離職率の原因・退職社員からのサーベイ退職社員と在籍社員の差分・勤怠の違い(退職社員は勤怠に問題が多く、在籍社員は少なかったなど。以下同様)・給与額や昇給率の違い・人事評価の違い・等級滞留年数の違い上記を踏まえて、離職率を下げるための取り組みや、それによる離職率の減少傾向を開示すると良いでしょう。離職率の傾向・直近3年間の離職率社員が働きやすい制度・スキルアップの制度(研修、副業推奨など)・勤務形態(フレックスタイム、テレワークなど)・福利厚生(産休、生理休暇、社内保育所など)例③ 男女格差の是正に取り組んでいる男女格差是正はダイバーシティの観点では重要ですが、投資家から見ると、それが企業価値にどのように貢献するのかイメージしづらいものです。よって、まずは以下の情報を開示すると良いでしょう。男女格差是正による会社へのリターン・女性候補者の採用を強化できる・女性顧客向けの商品開発やマーケティングを強化できる・社内の優秀な女性社員を発掘できる男女格差により社内で起きている問題・女性の離職率高騰・社内トラブルの増加な上記を踏まえて、男女格差是正の取り組みや、それによる実績を開示すると良いでしょう。女性が働きやすい制度・女性役員や管理職の輩出・登用・スキルアップの機会(女性向けリーダー研修など)・勤務形態(フレックスタイム、テレワークなど)・福利厚生(産休、生理休暇、社内保育所など)女性社員からのサーベイ・働きやすさに対するアンケート・キャリア志向に対するアンケート・会社に対する要望や意見男女格差是正の変遷・直近3年間の男女比率・部署・役職・等級ごとの男女比率・直近3年間の男女別の平均賃金データ集計のポイント複数のシステムから人事データを集める手間を無くすためには、データが集約された人事マスタの構築が必要です。人事マスタに求められる要件は大きく2つです。データを時系列で確認できること現時点のデータだけではなく、「過去から現在まででどのように変化・推移したのか」などデータを時系列で確認できることが重要です。これにより開示がしやすくなるとともに、組織の成長や人事施策の効果なども測りやすくなります。様々な軸でデータを見られること人的資本開示では「直近1年間の離職率」「部署ごとの男女比」など所属組織や属性、期間別にデータを集計することも多いので、様々な軸でフィルタリング、レポートできる機能も必要です。※人事マスタの構築方法については人事データ分析に不可欠! 人事マスタ構築のポイントやツール比較をご覧ください。Human & Humanのご紹介この2つを満たす製品として、クラウドワークスで開発しているHuman & Humanがあります。これは人事マスタとして人事データを集約し、データの集計や活用をしやすくするための製品ですが、人的資本開示においては以下のようなメリットがあります。人的資本開示でよく使われる項目を自動計算できる(例)男女の賃金格差・平均給与など様々な軸でフィルタリングができる(例)組織別、期間別、男女別、役職別退職分析がしやすい(例)離職率の推移を確認できる、退職社員の傾向を自動で分析してくれるまた、人的資本開示だけでなく、日常業務でも人事データを活用しやすくなります。データ集計の手間を減らせる (例)IRに載せるグラフや図表を自動作成できるデータをすぐに確認できるので、仮説検証までのリードタイムを短縮できる (例)残業時間が長い部署ほど離職率が高そう→データを確認する人事施策の効果測定がしやすくなる (例)施策を行った前後でKPIを定点観測するHuman & Humanについて詳しく知りたい方は、機能や導入事例をご覧いただくか、以下より資料請求お願いいたします。製品を実際に触りたい方はトライアルにお申し込みください。