本記事ではHRBPの導入を検討している企業向けに、HRBPの概要やよくある課題を解説いたします。HRBPとはHRBPの概要HRBPとは、戦略人事における役割の一つであり、経営陣や事業部と連携して経営戦略・事業戦略を達成します。元々は1990年代にウルリッチという経営学者が『MBAの人材戦略』で、戦略人事の概念とともに唱えたものです。従来の人事が管理・オペレーション業務などの「守り」中心であったのに対し、HRBPは経営や事業と連携して価値を創出する「攻め」の要素が強いことが特徴です。※戦略人事については、戦略人事の解説記事をご覧ください。HRBPを置くメリットメリット具体的内容経営・事業との連携強化経営戦略や事業計画に沿った人材施策の立案・実行が可能になる人材課題の早期発見現場の声やデータをもとに、潜在的な人材リスクや課題を把握できる人材活用の最適化適材適所の人材配置や育成計画を提案できる組織・チーム力向上組織課題に対して現場と協働し、効果的な改善策を実施できるデータ活用による意思決定支援HRデータを分析して、意思決定や施策の優先順位付けをサポートできるHRBPが注目される背景VUCA時代に対応できる柔軟な組織作りが必要になっている人的資本経営の浸透により、経営と連携した人事のあり方が求められているHRテックや人事データの浸透により人事施策の効果測定や実行がしやすくなったHRBPの役割HRBPの位置付けや社内との関わり方は以下の図の通りです。出典: グロービス事業部との関わり方HRBPが人事組織のフロントに立ち、事業部とのコミュニケーションを担います。多くの企業ではHRBPは1人ですが、事業部が多い大企業ではHRBPを複数名置いてコミュニケーションを分担することもあります。事業部担当HRBP事業部AAさん事業部BBさん事業部CCさん人事組織との関わり方HRBPが1人で人事施策などを設計するのは大変なので、CoE(人事の専門家組織)を社内に置くこともあります。HRBPはCoEのアドバイスや助言を受けながら人事施策を事業部に提案します。社内で承認された施策についてはHRSS(オペレーションを回す組織)が実行を担います。HRBPはHRSSと連携しながら施策をスムーズに実行します。施策が実行されたら、その結果を踏まえてCoEとともに改善策を検討します。※CoE、HRSSについては、戦略人事の解説記事をご覧ください。経営陣・CHROとの関わり方CHROを設置しない企業の場合、HRBPが経営の一員として経営陣と連携し、人事戦略などを設計することが多いです。CHROとHRBPを分けている企業の場合、場合、以下のような役割分担をすることが多いです。CHRO:経営陣の一員として経営戦略・人事戦略を設計するHRBP:事業部や人事組織と連携して、人事戦略を具体的な施策に落としこむHRBPの導入事例HRBPは戦略人事を実践しているメガベンチャーやスタートアップ、企業規模の大きい大手企業やグローバル企業で導入されることが多いです。ここではHRBPのミッションや事業部との関わり方を解説されている導入事例をいくつかご紹介いたします。SmartHRメルカリGEヘルスケア・ジャパンHRBPに求められるスキル例HRBPには様々なスキルが求められます。前述の通り、HRBPは経営戦略や事業戦略を達成することがミッションなのでビジネスへの理解は必須ですし、人事施策を設計するための企画力、事業部とのコミュニケーション力、人事組織を動かすための人事知識なども必要です。HRBPに求められるスキル例を以下にまとめました。スキル詳細ビジネス理解力事業戦略や業績目標を把握し、人事施策を事業成長に直結させる力。財務やKPIへの理解も含む。戦略的人事の企画力採用・育成・配置・評価・報酬を経営戦略に基づき設計・提案する力。データ分析力従業員サーベイや離職率などを分析し、課題発見と改善施策に落とし込むスキル。コミュニケーション力経営層・現場の双方と信頼関係を築き、対話を通じて課題を抽出・解決する力。法務・労務知識労働法や就業規則を理解し、リスクを回避しながら施策を推進する力。変革推進力制度改革や組織変革をリードし、現場の抵抗をマネジメントするスキル。コーチング・ファシリテーション力マネージャーの成長を支援し、チームの意思決定や成果を高める力。プロジェクトマネジメント力複数部門を巻き込みながら施策を計画・実行し、期限内に成果を出す能力。ただ、これらのスキルを全て持つ人は稀少なので、全てのスキルを求めると「該当者が社内に誰もいない」「HRBPを採用したくても要件を満たす人がいない」となりがちです。足りない部分は他のメンバーで補うなどを検討しましょう。HRBPの進め方HRBPが失敗する原因人事白書によると、戦略人事を導入していても機能している企業はわずか5.1%とのことです。HRBPは戦略人事とセットで導入することが多いので、戦略人事と同じく、HRBPを導入していても機能している企業が少ないと考えられます。HRBPが機能しない原因は様々ですが、以下のようなものがあげられます。失敗の原因内容経営・事業と乖離HRBPが経営戦略や事業課題とつながらず、人事施策が単なる制度運用や調整役に留まる権限や役割の不明確さHRBPが意思決定権を持たず「伝達係」となり、戦略人事として機能しない事業部門との信頼不足現場に寄り添わず人事主導に終始し、事業部門から「使えない存在」と見なされる人材のスキル不足HRBPを担う人材に、経営視点・分析力・課題解決力が欠け、戦略的に動けない人事機能全体の未整備CoEやHRSSとの連携がなく、オペレーション業務に忙殺されて戦略業務ができない経営層の理解不足経営陣がHRBPを単なる人事担当と誤解し、活用せず、形骸化してしまうHRBPを成功させるポイントこれらを踏まえて、HRBPを成功させるときのポイントは以下の通りです。自社にHRBPが必要か検討するそもそも経営陣や事業部がHRBPを必要と認識していないのに導入しても成功は困難です。よって、経営陣や事業部でHRBPのような役割が必要かを検討しましょう。HRBPをスモールスタートで導入するHRBPをいきなり全事業部に導入しても、社内の理解を得づらい、HRBPが業務過多になったりで上手く活躍できないことが多いです。まずは人事施策や組織開発のニーズが大きくHRBPが必要な事業部に絞って導入すると良いでしょう。その事業部でHRBPの成功事例を作ることができれば、他の事業部にも横展開しやすくなります。経営陣や事業部との連携を整理するHRBPは経営戦略・事業戦略を達成するための人事なので、経営陣や事業部との連携が必須です。ところが、HRBPを置いて社員をアサインしただけでは「経営情報がHRBPまで降りてこない」「事業部がHRBPに情報を提供してくれない」などの問題が発生します。よって、経営陣や事業部と連携するための仕組みを整理しましょう。「HRBPが経営会議に出席する」「HRBPと事業部の定例会議を設ける」などの会議体を設ける他、「経営陣から事業部にHRBPの意義を説明する」なども重要です。HRBPを任せられる人材を用意する戦略人事を進めるときの大きな課題となるのがHRBPの不在です。従来の人事はバックオフィスやオペレーションを担当していた人が多く、経営戦略・事業戦略の理解や組織設計といったビジネスサイドに長けた人が少ないからです。オペレーションが得意な人をHRBPにアサインしても育つのに時間がかかりますし、そもそもHRBPに向いておらず十分に機能しないこともあります。こういうときはHRBPを任せられる人材を新規採用するか、事業部からHRBPを抜擢すると良いでしょう。両者メリット、デメリットがあるので、自社の採用や組織の状況を踏まえて判断しましょう。区分メリットデメリット新規採用・即戦力となるHRBP経験者を採用できる・外部の知見やベストプラクティスを社内に持ち込める・人事機能の高度化・変革をリードできる人材を確保できる・社内のしがらみにとらわれず中立的な立場で判断できる・採用コストが高い(年収水準も高め)・自社の事業や文化の理解に時間がかかる・経営・事業部との信頼関係を一から構築する必要がある・カルチャーフィットしないリスクがある事業部から異動・事業内容や現場の実情を深く理解している・既に事業部や経営との人間関係・信頼関係がある・カルチャーフィットのリスクが低い・異動コストは採用より低い・人事専門知識やHRBPスキルが不足している可能性がある・異動元の事業部にとって損失になる場合がある・外部知見が入りづらく、既存のやり方を踏襲しがち新規採用するときは正社員採用が多いですが、難しいなら業務委託やアウトソーシングサービスを使っても良いでしょう。事業部から異動させるときは経営・事業に対する理解度が深い人間(マネージャーやベテランなど)を抜擢しましょう。戦略人事実践チェックシート戦略人事と一口に言ってもその領域が多岐に渡るため、「戦略人事とは何をすれば良いか分からない」という企業が増えています。また、「戦略人事」を客観的に測る尺度が存在しないため、「自社の戦略人事がどれぐらいのレベルか分からない」ということもあります。このチェックシートは、弊社で定義した「戦略人事の理想像」に沿って、企業が戦略人事をどれぐらい実践できているかを診断できます。チェックシートをダウンロードする